今日は老人のessayを。私が二十歳の頃の「常識」と現代の「常識」には相当な開きがあります。何事もそういうものでしょう。例えば、タバコ。50年前にはタバコは普通の趣味でしたが、欧米の医師の少なくとも一部はシンプルにタバコを吸うな、と言っていました。私の祖母は肥満気味でした。体重を減らしたいと医者にいったところ、タバコを勧められてそれ以来、キセルで吸ってました。私の記憶にある頃はだいぶシワだらけでした。肺がんで最後はガリガリにやせて死にました。せいぜい10年か20年の喫煙歴だったはず。今ではタバコを吸っても良いよ、という医師はゼロでしょうね。

そのような常識にものすごく時代差があるのが、人間の進化の話でも同様。50年前に人間の進化といえば、アファール原人と分類される化石が発見され、進化の学説が更に一歩進歩していたころ。でも、今は、霊長類の中で、なぜホモサピエンスだけが無毛なのかは子供でも知っています。自分の走りのスタイルをどうしようかと考えるとき、ホモサピエンスのライフスタイルから取り入れるべきか、踵着地(heel strike)を想定しているシューズの構造から考えるべきか、とランナーが悩むのはそれだけ人間の進化が広く知られるようになってきたから。

今から50年後の世界の常識は何がどのように変化あるいは進化しているのでしょうか。私にはわかりませんが、おそらくひとつだけ確実だろうと思うのは、21世紀後半には、酒を飲む人は少数派だろうということ。つまり、酒は健康に、とりわけ脳に良くありませんが、ちょうどタバコと同じように、すこしずつ人々は宗旨替えをして、最後には怒濤のようにパラダイムシフトが起きるだろうと私は思っております。「昔は大人の大半は酒を飲んでいたんだよ」「嘘でしょ」「ヨーロッパでは子供には水で薄めたワインを飲ませていたことがアーカイブされている21世紀初頭の動画でわかるよ」「信じられない~」「フットボールスタジアムでの広告にビールメーカーのロゴが登場していた時代さ」「え~!?」

先日、NHKで放送されたドキュメンタリーは、セネガルのサバンナ地区(フォンゴーリ)に生息するニシチンパンジー(Pan troglodytes verus: PTV)のことを扱っていました。私にとって衝撃的だったのは、汚そうな水を飲むのを嫌うPTVは、川の側の砂地を掘って水が染み出て来るのを待ち、それを飲んでいました。彼らは火を扱うことはありませんが、他の動物とは違い、火災の後の草原、森林に積極的に入り、植生の変化に積極的に対応しようとしています。つまり、普通のチンパンジーよりはかなり人間に近いのです。実際に体毛の密度もチンパンジーよりは低下していて、やや人間に近づいているようです。そのうち本格的な研究論文が発表されるでしょう。そのドキュメンタリーの主人公は現地の人で、研究者とは呼べない様な立場の人でした。PTVの群れに受入れてもらうだけでも数年かかったそうです。もしあなたがPTVつまりニシチンパンジーのことを頭の片隅においておけばこれからたまにその言葉あるいは英語のWestern chimpanzeeに出会う度に人間の進化に関する重要なイベントで自分の知識をアップデートできますよ。