昨日の続きです。
algorithmに関しては、誰でも知っている、有名なエピソードがあります。フリードリッヒ・ガウスという、有名な数学者が子供の時の学校での話。教師に急用ができ、生徒たちに1時間かかりそうな課題を与えようとしました。「1+2+3+...+100を計算せよ」と黒板に書いて、教室を出ようとしたとき、ガウス少年は、「先生、できました。」と言ったそうです。先生がガウス少年の解法、つまりアルゴリズムを尋ねると、少年は、最初と最後の数を足し、次に同じように残っている最小と最大を足し・・・、すなわち、1+100, 2+99, 3+98,...で、つまり50個の101がある、と答えたのだとか。これも立派なアルゴリズムですね。これは極めて有名です。総和5050が正解です。
中世のポエムのアルゴリズムのありがたみは我々にはわかりません。我々は一般的な、方程式による解法を知っているためです。ですが、これが別の種類の課題、例えば1から30までの整数を書いたカードがランダムに並べられている場合、これを1から30までの順に最小の回数で並べよ、という課題があるとします。このような場合には、アルゴリズムの優劣が出て来ます。EXCELでの並べ替えは今はマウスで一回でできますが、その裏では、このような並べ替えのアルゴリズムが働いています。これよりも遥かに劣る、並べ替えのアルゴリズムが採用された表計算ソフトが仮にあったとします。そのような場合には並べ替えは一瞬では終わらずに、ジーっと待つこと30秒というようなことになります。
ただし、今日の用法では、algorithmはコンピューターにやらせる「計算」そのものを意味する言葉になっている、と言って良いでしょうか。私はそのように理解しておりますが、専門家から見ると少し違和感があるかも知れません。ちなみに、M-Wでの語義をコピペすると以下のようになっています:
見出し語:algorithm
broadly : a step-by-step procedure for solving a problem or accomplishing some end
例文 There are several search engines, with Google, Yahoo and Bing being the biggest players. Each search engine has its own proprietary computation (called an "algorithm") that ranks websites for each keyword or combination of keywords.
— Julie Brinton
この、broadly ですが、辞書ではどのような意味だと言えば良いのでしょうか。私はbreadly speaking 広義では、の意味だと思います。それはともかく、broadly 、このような使い方もあるのですね。
一方で、語源の方ですが、こちらは結構面白いですよ。(etymonline lemma:algorithm)
1690s, "Arabic system of computation," from French algorithme, refashioned (under mistaken connection with Greek arithmos "number") from Old French algorisme "the Arabic numeral system" (13c.), from Medieval Latin algorismus, a mangled transliteration of Arabic al-Khwarizmi "native of Khwarazm" (modern Khiva in Uzbekistan), surname of the mathematician whose works introduced sophisticated mathematics to the West (see algebra). The earlier form in Middle English was algorism (early 13c.), from Old French. Meaning broadened to any method of computation; from mid-20c. especially with reference to computing.
mangled transliteration という言葉、なかなか見ませんが、transliterationとは「音訳」のことです。ある言語での音を、別の言語に移すことを言います。言語学では「翻字(ほんじ)」というそうです。例えば、ギリシャ語δραμαとは、我々の知っているラテン文字で書くと drama です。このような行為をtranslietrationと言います。(ラテン文字にする場合、別の名前もあってLatinization、Romanizationとも言います。) mangledとはそのまま「バラバラ」「ズタズタ」ということです。Khwarizmi とは、おそらく「フワーリズミ」と日本語で読む、中世のペルシャ人数学者の名前だろうと思います。辞書にはありませんでした。しかも、綴でもかつては、algorismで、それがalgorithmとなった、ようです。日本人が少しだけ勇気づけられる、発音の変遷ですね。
日本では極端に文系理系を分けて考えますが、欧米ではこんな教育はありません。過度に数学を毛嫌いすることはあなたのキャリアー形成で得になることはないと私は思います。少なくとも数学アレルギーを取り除く必要が日本人の文系の方々にはあると思います。
蛇足ですが、ペルシャ語の世界の人々は英語のalgorithm(あるいはフランス語のalgorithme)をどのように受け入れたのでしょうか。自分たちの先祖が使っていた言葉が大陸の端でmangled transliterationされて訛って行き、さて、何と言う現代ペルシャ語で反映させるべきか、と考えたとき、どのように悩んだのか気になります。そしてペルシャを目の敵にしているアラビア世界ではどうしたのか。それともそんなものを受け入れる必要がないほどに自分たちの数学は発達していたのでしょうか。
過去のアーカイブへのリンク 『Gettysberg Addressあるいは変な命数法』2021年01月18日
algorithmに関しては、誰でも知っている、有名なエピソードがあります。フリードリッヒ・ガウスという、有名な数学者が子供の時の学校での話。教師に急用ができ、生徒たちに1時間かかりそうな課題を与えようとしました。「1+2+3+...+100を計算せよ」と黒板に書いて、教室を出ようとしたとき、ガウス少年は、「先生、できました。」と言ったそうです。先生がガウス少年の解法、つまりアルゴリズムを尋ねると、少年は、最初と最後の数を足し、次に同じように残っている最小と最大を足し・・・、すなわち、1+100, 2+99, 3+98,...で、つまり50個の101がある、と答えたのだとか。これも立派なアルゴリズムですね。これは極めて有名です。総和5050が正解です。
中世のポエムのアルゴリズムのありがたみは我々にはわかりません。我々は一般的な、方程式による解法を知っているためです。ですが、これが別の種類の課題、例えば1から30までの整数を書いたカードがランダムに並べられている場合、これを1から30までの順に最小の回数で並べよ、という課題があるとします。このような場合には、アルゴリズムの優劣が出て来ます。EXCELでの並べ替えは今はマウスで一回でできますが、その裏では、このような並べ替えのアルゴリズムが働いています。これよりも遥かに劣る、並べ替えのアルゴリズムが採用された表計算ソフトが仮にあったとします。そのような場合には並べ替えは一瞬では終わらずに、ジーっと待つこと30秒というようなことになります。
ただし、今日の用法では、algorithmはコンピューターにやらせる「計算」そのものを意味する言葉になっている、と言って良いでしょうか。私はそのように理解しておりますが、専門家から見ると少し違和感があるかも知れません。ちなみに、M-Wでの語義をコピペすると以下のようになっています:
見出し語:algorithm
: a procedure for solving a mathematical problem (as of finding the greatest common divisor) in a finite number of steps that frequently involves repetition of an operation
broadly : a step-by-step procedure for solving a problem or accomplishing some end
例文 There are several search engines, with Google, Yahoo and Bing being the biggest players. Each search engine has its own proprietary computation (called an "algorithm") that ranks websites for each keyword or combination of keywords.
— Julie Brinton
… sometimes you solve a problem by coming up with an algorithm of some kind. But sometimes you solve a problem in a very ad hoc sort of way.
— William H. Huggins (unquote M-W)
メモ greatest common divisor 最大公約数、GCD (divisor /diváizər/)
メモ greatest common divisor 最大公約数、GCD (divisor /diváizər/)
この、broadly ですが、辞書ではどのような意味だと言えば良いのでしょうか。私はbreadly speaking 広義では、の意味だと思います。それはともかく、broadly 、このような使い方もあるのですね。
一方で、語源の方ですが、こちらは結構面白いですよ。(etymonline lemma:algorithm)
1690s, "Arabic system of computation," from French algorithme, refashioned (under mistaken connection with Greek arithmos "number") from Old French algorisme "the Arabic numeral system" (13c.), from Medieval Latin algorismus, a mangled transliteration of Arabic al-Khwarizmi "native of Khwarazm" (modern Khiva in Uzbekistan), surname of the mathematician whose works introduced sophisticated mathematics to the West (see algebra). The earlier form in Middle English was algorism (early 13c.), from Old French. Meaning broadened to any method of computation; from mid-20c. especially with reference to computing.
mangled transliteration という言葉、なかなか見ませんが、transliterationとは「音訳」のことです。ある言語での音を、別の言語に移すことを言います。言語学では「翻字(ほんじ)」というそうです。例えば、ギリシャ語δραμαとは、我々の知っているラテン文字で書くと drama です。このような行為をtranslietrationと言います。(ラテン文字にする場合、別の名前もあってLatinization、Romanizationとも言います。) mangledとはそのまま「バラバラ」「ズタズタ」ということです。Khwarizmi とは、おそらく「フワーリズミ」と日本語で読む、中世のペルシャ人数学者の名前だろうと思います。辞書にはありませんでした。しかも、綴でもかつては、algorismで、それがalgorithmとなった、ようです。日本人が少しだけ勇気づけられる、発音の変遷ですね。
日本では極端に文系理系を分けて考えますが、欧米ではこんな教育はありません。過度に数学を毛嫌いすることはあなたのキャリアー形成で得になることはないと私は思います。少なくとも数学アレルギーを取り除く必要が日本人の文系の方々にはあると思います。
蛇足ですが、ペルシャ語の世界の人々は英語のalgorithm(あるいはフランス語のalgorithme)をどのように受け入れたのでしょうか。自分たちの先祖が使っていた言葉が大陸の端でmangled transliterationされて訛って行き、さて、何と言う現代ペルシャ語で反映させるべきか、と考えたとき、どのように悩んだのか気になります。そしてペルシャを目の敵にしているアラビア世界ではどうしたのか。それともそんなものを受け入れる必要がないほどに自分たちの数学は発達していたのでしょうか。
過去のアーカイブへのリンク 『Gettysberg Addressあるいは変な命数法』2021年01月18日