読者の方から誤りの指摘がありました。以下の中で、Carrara*という地名が正しいです。有名な、大理石の産地です。ミケランジェロのダヴィデ像の原石はここから運ばれました。いただいたコメントは公開するように設定しておりますが、私のブログ・リテラシーが低いようで、そのご指摘が表示されないようです。匿名の方からのご指摘です。感謝と共に訂正させていただきます。
昨日まで書体の話をしておりました。紙のことを飛ばしておりました。ほんのちょっとの、印刷と紙に関するトリヴィアを仕入れることが、あなたの知的生活を豊かにしてくれるかも知れません。
昨日まで書体の話をしておりました。紙のことを飛ばしておりました。ほんのちょっとの、印刷と紙に関するトリヴィアを仕入れることが、あなたの知的生活を豊かにしてくれるかも知れません。
英語でportfolioという言葉があります。元はイタリア語のportafoglio
で、foglioとは2つ折りの紙のサイズを言いました。(ラテン語ではないのですね。ただ、ラテン語でもほぼ同じ単語たとえばfolio=paperというような単語だそうです)portaは英語のportableなどの元の語です。全紙サイズの2つ折りということは、かなり大きいです。これを持ち運ぶporto用にしたもの、という意味でしょうね。初出は1722年。当初は政府刊行の公式文書の意味だったそうです。現代では、いくつかの意味があります。芸術系の人々では、作品集。商業ではinvestment portfolio、つまり投資先の証券合本などの意味です。なお、これを省略して 2º と書く人もいます。なお、「全紙」というものには、昔はあまり明確な規格はありませんでした。(現代では明確な規格があります。)
folioをもう一度折ったものを、英語でもquarto
と言います。字面の通り、4つ折りです。ただ、これが果たしてイタリア語なのかラテン語なのかはわかりませんでした。もっと丁寧に調べればわかるかも知れません。これの略記は 4º です。
これをさらに折ると、octavo になります。これは八折りのことを言います。おそらく、これが最も我々の目にしやすい紙あるいは本のサイズです。現代だと、縦の長さで、おおよそ20cm位の本を指す言葉です。あなたは 8vo あるいは 8º という表記を見たことがあるかも知れません。これの読みは octavo です。本によっては、これはイタリア語であると言い、本によってはラテン語である、と言っております。なぜか、印刷、製本では、結構イタリア語らしき言葉が生きております。なぜなんでしょう?もしかすると、イタリア発祥の印刷技術がヨーロッパに広まったからかも知れません。
羊皮紙に一字一字手書きしていた中世には本は大型になりがちでしたが、印刷するときに少しでもコンパクトにすることが工夫されて、フォントの工夫もあって、小型化されました。これがあったために、聖書が家庭に1冊から、1人1冊になっていったわけです。これが宗教改革の別の側面でしょうね。八つ折りより更に小型のものもあります。それらも実は英語圏でもイタリア語が使われています。もっと知るためには以下のURLに、日本の紙サイズのことも含めて説明されています。興味があればチェックしてみてください。
そして、紙のこととなると、イタリアのある会社が登場します。それは Fabriano という会社です。地名でもあります。中世の東地中海で活躍したイスラム商人にとって、イタリア人は色々なものを買ってくれた得意先でしたが、その一つには紙があります。なぜかヨーロッパ人はあまり紙の製造には関心が薄く、最初はイスラム系商人から買っていました。それを自分で製造することにしたのが、イタリア中部の東側ですが、山の中の Fabriano の会社でした。(Carrara* という地は高級大理石で有名ですが、これは北イタリアにある別の町です。) たしか創業1264年。Fabriano社は「透かし」watermark を紙に入れ始めた会社です。最初は藁(わら)でX状に入れたもので、主な目的は品質保証つまり製造者はFabriano である、ことを示すためのものでした。近代まで紙幣は補助貨幣であり、金などの貴金属貨幣との兌換を保証するための証書に過ぎませんでしたが、偽札を排除するための技術としては、透かしは結構重要なものだったようです。ヴォルフガング・モーツァルトはファブリアーノ社の五線紙を愛用していたそうです。透かしは毎年少しずつ変えられたそうです。このため、モーツァルトの場合、曲想を書いたもの(「スケッチ」と呼ばれます)あるいは総譜の制作年を特定するのに非常に役立つようです。
紙、印刷、書体がセットになって、ルネサンス期にイタリアからヨーロッパに普及して行きました。