この映画の英語をおすすめします。しかしこれは少し難易度が高いかも知れません。今日はそんな話題です。最初にお断りを。私は一度もボストンに行ったことがありません。もしかすると、以下のコメントには、間違いがあるかも知れません。そのつもりで読んでくださいませ。
(1)背景
このタイトルは、ボストンを流れる、有名な川の名前です。そして冒頭の2つのシーンでは、子供が道路で遊ぶ背景に、色々な映画に登場する、あの同じ橋が見えます。調べるとこの橋がミスティック橋だそうです。アメリカ映画に登場する橋と言えば、ブルックリン橋(NYC)、ゴールデンゲートブリッジ(SF)が双璧でしょうか。おそらくそれに次ぐ登場頻度かも知れません。
ボストンが舞台の映画のお約束は、昔から、アイリッシュとイタリアンが対立する町・・・ということは、カトリックが多く、警官は汚職まみれ、レッドソックス(MLB)、ケルティクス※(NBA)、ペイトリオッツ(NHL)などのプロスポーツの熱いファンが多い、というのが通り相場です。ですが、この映画は、汚職はまったく関係しない設定の刑事物、犯罪物です。
(※カタカナではわかりにくいですが、それはCelticsつまりケルト人、つまりアイリッシュのことですね。)
登場する家並みは19世紀半ばの木造が多く、どことなくサンフランシスコの中心部と似ています。木造3階建てのアパートメントのことをAEではtripple-deckerと言います。アメリカでこれがある町はそう多くはないような気がします。この映画のシーンではtripple-deckerが使われています。
主役の一人Jimmyは、groceryを営みながら、マフィアであることがわかります。欧米のマフィアは社会に紛れ込むために、誰がマフィアかは明確にはわかりません。(ロシアのウラディミール・プーティンがマフィアかどうかは、よくわかりませんが、挙動を見ると…)
この町にはBoston
Univ、Berkeley(音楽系大学。University of California, Berkeleyとはまったく別)などの有名な大学がいくつもあります。River
Charlesを挟んだ対岸のCambridgeという町には、Harvard、MITがあります。イングランドの有名な大学町と同じ名前ですね。映画の中ではCambridgeにあるthe
Cantab Loungeという有名なバーの名前が登場します。Cantabは、コーラ缶のプルリングのことではありません。Cambridgeという名前はイングランドの大学町に由来しますが、CambridgeのLatinizationはCantabrigiaというそうで、その短縮形がCantabです。当然demonymもCantabでしょうね。この短縮のやり方がいかにもアメリカ風です。(同時にこのCantabという単語はHarvardの学生、卒業生のことも指すようです。)
ボストンは、ポール・ニューマン主演の古い映画『評決』The Verdictの舞台でもあります。アル中のボロボロ弁護士が戦うという映画。中にバーが登場しますが、バーの映像はボストンで撮られたのではなく、監督の好みでマンハッタンで撮影されたそうです。
(2)訛りと言葉
我々が出合うことはなさそうな、最下層のボストニアン達が登場します。私はボストン訛りについてはよくわかりませんが、アメリカの中では最も悪名高いアクセントです。ボストン訛りの例を尋ねると、「numbah fahかな」と教えてくれたアメリカ人がいました。なんのことかわかりますか?number fourの発音をボストン訛りで書くとnumbah fahになるのでしょうね。
この映画で、かなり大事なシーンがあります。刑事2人が911の電話録音テープを再生するところ。でのキーワードはherです。これをボストン訛りでhahと発音するので、少し面喰います。これはわざと現地の訛りを出しているのでしょう。
ただ、アメリカの訛りとは、日本語の、たとえば東北弁、大阪弁のように、しゃべりだした瞬間からわかるものはあまりなく、-er音のような、ポイント、ポイントでわかるものです。(例外は南部のdrawlingです。)ただ、私には、ボストンのnumbah fahとニューヨーカーのnumbah fahとの違いはわかりません。ま、どちらもアメリカの東北部の訛りというくくりに入れて良いと思います。
映画の途中で、話し方がとたんにかなり不明瞭な発音になり、速度も速くなります。制作者の意図なのか、あるいは別の理由があるのでしょうか。
私は同じ映画を2度見ることはあまりありません。ですが、この映画は2度見ました。slangが非常に多いため、話の流れをある程度つかむと、辞書にはないslangの意味の推測が可能になります。
最初から数分経ったシーンでは、橋の上から主人公の一人がneighborhoodを見下ろしていて、その意味は、二つに解釈可能ですが、どちらとも言えません。しかし、このシーンでのneighborhoodが「地区」「一帯」を意味する言葉だとわかります。おそらく最初のシーンの、路上で幼いころの主人公3人が遊んでいた場所はこのneighborehoodにある、ということを暗示しています。
あるいは、事件現場にpsychologist、心理学者を呼べ、というのがあります。slangで別の意味があるのかいろいろ調べましたがありませんでした。その直後のセリフでshrinkという言葉が出てきます。これはpsychologistを揶揄する言葉だそうです。暴走する頭デッカチを小さくするというところから来ているようです。でもなぜまだ死体の見つかっていない現場にpsychologistが?もしかすると今でいうprofilerのことでしょうか?この言葉profilerはそれほど古くなく、初出はおそらく1980年代または90年代のはずです。この映画の1970年代という時代設定です。
(3)人物
登場人物がそれぞれに心の中に暗いもの、あるいは暗い過去を持っています。そしてneighborhoodの住人達が不自然なほどに血縁の近い人々と結婚しています。地縁、血縁の濃い土地柄であることを描きたかったのでしょうか。
あるいはこの映画は細部で少し描き足りないのかも知れません。たとえば、Katieの恋人Brendanの父親が、ある日飲みに出て行ったきり、失踪しますが、10数年間、律義に毎月500ドルを送金し続けている、とBrendanが警察に語ります。家族が捜索願を出さなかったために捜査はなかったようです。殺されたと考えるのが自然ですが、Brendanはそれは父だと思い込んでいます。あるいは思いこんでいる振りをしています。(それ以上に、Brendanの母親が音信不通で500ドルの送金は「あの人らしい」と言うセリフもあります。)
私の経験からいうと、小説が映画化された場合、大体、映画より原作(小説)の方がはるかに面白いです。小説ではこの辺はしっかりと描かれていそうです。
いつもより長めのコメントでした。「教科書的」な映画ばかりではなく、ビーフジャーキー、バリバリに硬い煎餅のようなものもあなたの英語の勉強に良い刺激をもたらすかも知れません。Clint Eastwoodが監督する映画は、場所の設定が、特定の、しかもイメージしやすい場所に限定しているような気がします。以前取り上げた、Gran Torinoはデトロイトでした。あまりに有名な町であり、急速に衰退したことでも有名です。このように土地に深くかかわる映画作りが彼の特徴かも知れません。彼の他の作品も良いのかもという期待が膨らんできました。