今日の話題は知っていてもあまり役に立ちそうにないものです。でも楽しんでもらえれば嬉しいです。
アメリカでよく見かけると言われるFirst Ladyとは、多くの場合は連邦政府大統領の配偶者を指します。では、女性が大統領になった場合には、その配偶者(夫?)は何と呼ばれるべきでしょうか
(----私は実は知りません。イングランド(UK)の君主は現在は女性エリザベス1世です。その夫君はフィリップ殿下ですが、英語ではPrince Philip, Duke of Edinburghと呼ばれます。Princeは皇太子を指す言葉ではなく、大抵は、国王を指す言葉ですが、どうも語感としては、king(queen)の下ですかね。和語では王配(おうはい)と呼びます。ですが、イングランド以外の国で、君主が女性の場合、その配偶者は普通、First Gentlemanと呼ばれます。)
さて、本日の話題は、称号ではありません。First Ladyという言葉があまりにも広く行きわたっているために、気づかれないことがあります。それはこの言葉が持つ性質です。First Ladyはkenningという言葉遣いの一つの例です。kenningとは何か?それは「代称」と呼ばれます。日本語では「代称」という名前はほとんど普及していないと思います。そのためここではケニングとカタカナで書きます。古代のゲルマン諸語においては、あるものを指すときに、その名前を直接いう代わりに、他の言葉で同じものを表すことが非常に多い、多かった、と言われています。英語はそれを引き継いでいると言われます。『ベオウルフBeowulf 』にもたくさん出てくるそうです。例えば、現代の綴りでwhale-pathという言葉が登場するそうですが、意味するものは「海」だそうです。
こう言われてみると、日本語にもありますよね。たとえば、「本の虫」です。字義通りのものを意味するのではなく、本好きの人のことです。
kenningの語源は?と探ると古ノース語kenningから来ているそうで、意味はkenna、知る、という言葉だそうです。M-Wを見ると、kenには、スコットランド語でknowとはっきり書かれています。今も生きている言葉なのですね。
ケニングは先日出たmetonymと似ていますが、metonymはある言葉が出てきたときに後でそれを言い換える言葉です。ケニングは言いかえではありません。あるものを直接指すのではなく、別の言葉を用いて指す、ということに由来します。文字のない口承で歴史を伝えるときに音節を整えたり、韻律を踏むために使われたのだろうと私は想像します。(あまり正しくないのかも知れません)
今週紹介した映画の中にhunk of metalという言葉が登場しました。金属の塊?なんのことでしょうか。これはディジタル・コンピューターのことです。これを書いた人にその気があったのかなかったのかはわかりませんが、これは立派なケニングだと私は思います。個人的にはその言葉は蒸気機関車のようなものを指すように思いますが。これには古いkenningがあり、それはiron horseです。別にそれが「正解」だと限定する必要はありません。しかし、古英語よりさらに古いゲルマン諸語の言葉の「綾」のようなものを現代英語が継承しており、その例の一つはfirst ladyである、それはkenningと呼ばれる、と知ると少しワクワクしますね。