今日は私が漠然と感じていることを書かせてください。
その前に、テレビ放送の情報を。BS12で、先日から『ハンニバル』という、Thomas Harrisの小説をドラマ化した、アメリカNBCの連続放送が放送されております。初回2話は先週終了し、第3話は5月3日金曜日19時からの放送です。これの良いところは、吹替がなされていないので、英語の聴き取りに使えることです。おそらく日本では既に放送されているのではないでしょうか。アメリカでのseason1の放送は2013年だったようです。私は今回第1話と第2話を観ましたが、現代的でテンポよく進む話です。主役と思われるWill Graham役をHugh Dancyという俳優が演じます。Hannibal Lecter役はMads Mikkelsenという、デンマーク人の俳優が演じております。両者ともに、私には初めて見る顔、名前です。Hugh Dancyはイングランド人俳優のようです。内容が猟奇的殺人、食人趣味ですので、多くの人におすすめする内容ではありません。最高難度の聴き取りですが、結構楽しめる方も多いだろうと想像します。Hugh Dancyの英語は、アメリカンではないだろうな、とは感じさせますが、しかし全くイングランドでもありません。Mads Mikkelsenの英語は外人の話す英語ですが、それでも超一流です。まったく違和感はありません。私にとってはこれも楽しみの一つです。Anthony Hopkinsが映画『羊たちの沈黙』で演じました。名演だったと思いますが、果たしてMads MikkelsenはHopkinsを超えられるか楽しみです。
さて、本題に。皆さんは「鉄のカーテン」という日本語の言葉をお聞きになったことがあると思います。これは、Winston Churchillという、UKの首相が演説で使った、有名な言葉です。鉄のカーテンとは、第2次大戦直後から1990年前後にソビエト連邦とその衛星国家が崩壊するまでの、東西陣営の対立を表す言葉です。それは冷戦時代と呼ばれます。それまでのhot warではなく、武力は行使されないが、緊張、対立が続いている状態です。(しかしながら正確にはChurchillが発明した言葉だとは考えられていません。)その一説を以下にコピーします:
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From Stettin in the Baltic to Trieste in the Adriatic, an iron curtain has descended across the Continent. Behind that line lie all the capitals of the ancient states of Central and Eastern Europe.
バルト海のシュテッティンからアドリア海のトリエステまで、ヨーロッパ大陸を横切る鉄のカーテンが降ろされた。中部ヨーロッパ及び東ヨーロッパの歴史ある首都は、全てその向こうにある。 (Wikipediaの訳)
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シュテッティン、Stettinとはドイツ語表記のポーランドの地名です。ポーランド語ではSzczecinです。(Wikipediaにはポーランド語の発音音声ファイルも添付されてます。)もともと「ポーランド」では、おそらく第1公用語はドイツ語であった時代が長かったようですので、Stettinが場違いということはないはず、と思います。いつもこのブログでは、たとえば、Copenhagenのように、現地語のように見えながら、実はAnglicizeされた単語を扱うのですが、この例のように、ドイツ語など外国語を経由して英語に入った地名がある、という例もあるのですね。もう一つのイタリアの地名、Triesteは/triːést/と発音します。綴りは現地語のままですが、最後のeはあたかも英語の綴りの一部のような扱いになります。
the Balticと書いて、「バルティックゥ」と発音する人はこのブログの読者にはいないと思います。ですが、ロシア海軍で有名な「バルチック」艦隊の由来ですので、それに引っ張られやすいかも知れません。発音は/bɔ́ːltik/ですので、一度覚えておきましょう。高校でやったように英語では「水もの」にはtheを付ける場合が多いです。the Baltic=the Baltic Seaのことです。もう一つの方Adriaticはヴェニスのある、イタリア半島東側の細長い海のことです。
なお、Staten IslandがNYにありますが、Stettinとはまったく関係がありません。ちなみに、Statenの由来は、もともとのオランダ語のDu Staaten Eylandtに由来します。これは現在はNew Yorkと呼ばれる町が、オランダの植民地でかつてはNieuw Amsterdamと呼ばれていたために、オランダ語の地名が音だけAnglicizeされて今に残っている例の一つです。
これと少し似ているのが、北京をPekingと呼ぶイングランド式の呼び方ですね。今はBeijingという方が一般的でしょう。おそらくPekingは広州方言での読み方だと思います。Cantonというのがかつての「広東(州)」の読み方でしたが、Guangzhou(広州)というのが今は普通のようです。かつては、本当に中国語には大きな方言が数個存在してお互いに外国語のようでしたが、1980年代頃から、標準中国語がかなり優勢になってきました。この背景には中国共産党が学校教育を標準中国語でという方針を徹底したからだそうです。中国4千年(?)の歴史で初めて、標準中国語が成立したということですね。これだけをとっても中国共産党はかつての王朝に匹敵するあるいはそれをしのぐ影響力を持つということでしょうか。
このブログで何度か取り上げたと思いますが、イングランドでの標準英語は1920年代のBBC設立になされたと考えられています。いわゆるRPと呼ばれる、発音です。興味深いのは、初代のBBCの会長John Reithはスコットランド人であり、Aberdeenの出身です。RPとはまったく全く関係のない土地です。その人物が中心となって、RPが作られました。BBCのラジオ放送開始は1922年だそうです。なお、John Reithは第1次大戦で口顎を狙撃兵に撃たれて大けがをしていたそうです。彼をサポートした音声学者がいて、名前をArthur Lloyd Jamesと言いますが、生まれは石炭工夫の息子という筋金入りの労働者階級出身者で、Wales出身です。地理的、社会的(=階級的)に、これほど言語が分裂している国はあまりないと思われる国UKで、スコットランド人とウェールズ人、つまりRPには縁のなさそうな人々がラジオの全国放送のために標準英語を実用化した、というのは興味深い出来事ですね。